造血器腫瘍に限らず、悪性腫瘍との戦いでなくてはならない薬剤が「アントラサイクリン系抗生物質」である。
最初にアントラサイクリン系抗生物質を発見したのはあ、ドイツ人科学者であるBrockmann博士であるといわれる。1950年代に彼は放線菌から赤色の抗生物質を単離し、rhodomycinと名付けた。 次は、1964年イタリアの製薬会社につとめるDi Marcoらによって開発され、1970年に抗白血病治療薬として承認されたdaunomycin(一般名:daunorubicin)である。 実は、ほぼ同時期にフランスの製薬会社においても開発・特許出願されていたrubidomycinなる薬剤と同一であることが判明し、特許紛争に発展したと言われる。 一般名のdaunorubicinの由来=daunomycin + rubidomycin と言われており、以降アントラサイクリン系抗生物質の一般名には「-rubicin」をつけることになった。 その後、Falmitaliaは、daunomycin産生金の処理過程で生じる物質に着目し、白血病だけでなく幅広く各種固形がんに効果を有するAdriamycin(一般名:doxorubicin)を開発した。 daunomycin(一般名:daunorubicin)とAdriamycin(一般名:doxorubicin=Hydoroxydaunorubicin)の違いは? その名前が示す通り、14位の水酸基の有無だけなのである。 しかし、その薬効には大きな違いがあり、Adriamycinは各種の固形がんに承認された。 その後もアントラサイクリン系抗生物質の開発が相次ぐが、わが国では当時MMCやbleomycinといった薬剤のみであった。 Falmitaliaが、daunomycin関連物質の誘導体であるepirubicinやidarubicinを開発する前の話である。 今日は当直です。非常に静かな夜になる気がしています…。(希望的観測)
さて人の体内にはおおよそ600個のリンパ節がありますが、リンパ節は実に様々な原因で「腫れる」ことが知られています。血液内科にもリンパ節が腫れて困るという患者さんがいらしゃいます。 まずは覚え方ですが、小生は英語の頭文字をとって「CHICAGO(シカゴ)」で覚えています。 C:Cancers 血液腫瘍、がんリンパ節転移 H:Hypersensitivity syndrome 血清病、薬剤性、塵肺、ワクチン接種後、移植片対宿主病 I:Infection ウィルス(EB,CMV,HBV,Adeno,HSV,VZV,HIV,HTLV-1) 細菌 (ブドウ球菌、連鎖球菌、猫ひっかき、結核、MAC、梅毒) その他 (クラミジア、リケッチア、トキソプラズマ、ヒストプラズマフィラリア) C:Cnnective tissue disease RA、SLE、PM/DM、MCTD、SSj A:Atypical lymphoproriferative disorders ウェゲナー肉芽腫、キャッスルマン病 G:Granulomatous leisions 結核、クリプトコッカス、珪肺、ベリリウム肺 O:Other unusual causes 菊池病、木村氏病、川崎病、内分泌疾患(Addison病、橋本病) ということで必然的に鑑別のために行われる検査も決まってきます。 血液生化学検査:CBC、LDH、CRP、血清Ca、リゾチーム 感染症抗原抗体価:EBV(VCAIgM、EAIgM、EBNA)、CMVIgM、HTLV-1、HIV、HBV、Adeno 微生物検査:一般細菌培養、抗酸菌培養、クォンティフェロン、クラミジア抗原など 血清ホルモン:TSH、fT3、fT4、ACTH、コルチゾール 各種腫瘍マーカー:CEA、CA19-9、SCC、NSE、sIL-2Rなど 細胞診:喀痰、尿など 画像検査:CT(病変部か全身)、US 内視鏡:上部、下部消化管 多くの症例でこれらの検査を行う間の1~3週間程度の時間的余裕があるのですが、一部の血液疾患はそれを許してくれず外科系の先生に何度か頭を下げて「緊急リンパ節生検」をお願いすることがあります。 3週間以上リンパ節が腫れている場合は、血液内科を受診することも考えてみては…。 追伸:主弥ちゃんは11ヶ月になり、どうにも手が付けられなくなってきました…。(汗) ![]() 白血病の治療に関わらず、日本国内と欧米では多くの疾患に対する治療アプローチにギャップが存在します。そのようなギャップを埋めるべく国内でも何とか世界に匹敵するレベルの標準治療開発を目指してJALSG(日本成人白血病研究グループ)などによる臨床試験が進められています。
しかし臨床試験は、白血病のように患者さんの数が10万人に数人レベルの疾患では十分な比較対象数を確保し解析を行うのに数年かかってしまうことも稀ではありません。標準治療の確立はたやすくないぞということになります。 そこで今まさに目の前にいらっしゃる患者さまの治療方針を立てる上で重要になるのは、これまでに行われた国内外の臨床試験の成績ということになります。 血液領域で世界的に最も信頼できる学術誌である「Blood」はそんな私たちに一つの答えを示してくれます。この雑誌は、米国血液学会(ASH)の学会誌であり、Publishされてから1年を経過するとFreeで閲覧することが出来るようになります。 勿論「Blood」が100%の真実を示している訳ではありませんが、とても重要な治療選択肢や示唆を提示してくれます。世の血液内科医達は、こういった雑誌を片手に日々の診療における世界水準を目指しています。 「Blood」のトップページは http://bloodjournal.hematologylibrary.org/ です。 ここからSearch for Articles の項をクリックし、サーチのページで項目を入力してください。Authorの欄に著者名を入力するだけでもかなりの絞込みができます。サーチボタンをクリックすれば、適合する論文のタイトルなどが表示されます。リンクのAbstract(要約)、Full Text(全文)などをクリックすれば閲覧することができます。 お時間のある時に世界水準の血液学を体験されてみてはいかがでしょうか? 非常に有名な話です。
薬剤名(商品名)、相対危険度、5%心筋毒性が出現する総投与量(mg/㎡) 塩酸ドキソルビシン(アドリアシン)、1、450 塩酸ダウノルビシン(ダウノマイシン)、0.5、900 塩酸エピルビシン(ファルモルビシン)、0.5、935 塩酸イダルビシン(イダマイシン)、2、225 塩酸ミトキサントロン(ノバントロン)、2.2、200 心疾患・高血圧・縦隔への放射線照射などが高リスク群となり、心エコー、シンチなどを行い厳密に管理します。 →原則的に治療前と比較して、EF(左室駆出率)が①10%以上の低下、②40-50%以下の時は投与出来ません。 白血病治療にも用いられる薬剤ですが、使用方法を誤ると危険です。
現在では、当然のこととして考えられている「成分輸血」ですが、輸血が始まった頃はほとんどが「全血輸血」でした。
そのターニングポイントとなったのが以下の論文です。 Chaplin Jr,et al.:Packed Red cells, N Engl J Med, 281; 364-367, 1969 当時すでに「全血輸血」の使用にあたっては、原則としてHypovolemic shockを引き起こすような急激な失血時のみに限るという記載があり、それ以外の患者にとっては余分な塩類(ナトリウムやカリウム)や不要な物質(アンモニア、クエン酸、乳酸)なども含めて有益性が少ないと記載されています。 欧米では、その1969年にAmerican Association of Blood Banks(AABB)から出版された「血液成分治療,医師の為のハンドブック」と題する手引き書の1975年版からはすでに「全血輸血」に対する項目はすでに記載されていませんでしたが、ある調査によると1975年当時の日本で「成分輸血」を実施していた割合は、なんと10.6%しかありませんでした。日本でもその後急激に「成分輸血」は普及してゆき、1983年にようやく84.7%まで増加してきました。 ちなみに生体に有用なたんぱく質も「全血輸血」なら補充できると話す先生もいたみたいですが、実は全血輸血1単位分に含まれるたんぱく質はたかだか卵1.5~2個分程度なので食事を普通にとっていれば大きな意味はないようです。 現在わが国でも血液製剤の不適正使用が問題となっておりますが、きちんとガイドラインにのっとり、貴重な医療資源を無駄にしないようにしたいものです。 再放送のドラマを見ていてふと血液型のエピソードが取り上げられておりました。
![]() そこでは心疾患に対する手術が必要な女性が登場しますが、「彼女の血液型が特殊で、輸血が…。」とよくある展開なのですが、取り上げられる血液型が「-D-」という特殊なRh血液型で医療関係者でもよく知らない人がいる血液型でした。 では「-D-」とはどういった血液型でしょうか? そもそもRh血液型とはなんでしょうか? 1941年、Landsteiner(ランドシュタイナー)とWiener(ウィーナー)は、人の赤血球にアカゲザル(=Rhesus monkey)と共通の血液型抗原があることを発見しました。そして、この抗原の有無によって分ける血液型をRh血液型としたのです。(冒頭の写真はアカゲザルの夫婦です。) Dr.Karl Landsteiner ![]() Dr.Alexander Solomon Weiner ![]() Rh血液型は基本的なCEとDの2つの抗原系で構成されています。このうちD抗原を持つものをRh陽性、持たないものをRh陰性と呼ばれており、欧米人で約15%、日本人で約0.5%のRh陰性の方がいます。もう一方のCE抗原系はC(またはc)とE(またはe)のいずれかの抗原を持っており、そのタイプはCE,Ce,cE,ceの4つの型が一般的です。 つまり遺伝子型で表すとcde、Cde、cdE、CdE、cDe、CDe、cDE、CDEの組み合わせのうち1つずつを両親から遺伝することになります。(cde/CDEであればdDでRh陽性など) しかし極めてまれですが、CE抗原系をまったく持っていない方がおり、D抗原系と合わせて-D-と表記されます。つまり、D抗原以外のC(またはc)とE(またはe)の抗原が存在しないので-D-と表わされるわけです。 日本人での頻度は20万人に1人とされていますが、実際はもっと頻度は低いと言われています。 また-D-はD抗原だけしかありませんが、通常の検査ではD抗原の有無しか調べないので、単なるRh陽性として取り扱われてしまいます。 -D-の方はCE抗原系がないため、輸血、妊娠により抗体(抗Rh17)を産生する可能性があり、輸血する場合はこのまれな血液型と同じ-D-の血液を輸血しなければなりません。 ちなみに世の中にはまだまだ特殊な血液型が存在します。 参考文献:「STUDIES ON AN AGGLUTINOGEN (Rh) IN HUMAN BLOOD REACTING WITH ANTI-RHESUS SERA AND WITH HUMAN ISOANTIBODIES.」 Landsteiner K, Wiener AS. J Exp Med. 1941; 74(4):309-20. 新しい薬のお話をします。 アレクシオンファーマから2010年6月14日付にて抗補体(C5)モノクローナル抗体製剤「ソリリス®点滴静注300mg」〔一般名:エクリズマブ Eculizumab(遺伝子組換え)〕が発売されることになりました。この薬は「発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:以下PNH)」の治療を目的として、遺伝子組換え技術によって作られたヒト化モノクローナル抗体です。 ![]() PNHとは終末補体複合体(C5b-9)を介した血管内溶血の結果、極度の疲労感や貧血などQOLの低下 を招き、時には腎不全、血栓症および肺高血圧症など致死的な疾患を合併する非常に予後の悪い疾患です。小生も数人ですが、診療を担当したことがあります。 ![]() ソリリスはヒトC5に特異的に結合し終末補体複合体(C5b-9)形成が阻害されるという新しい作用機序により、「発作性夜間ヘモグロビン尿症における溶血抑制」を効能効果とする新規医薬品です。 「用法・用量」 ①通常、成人には、エクリズマブとして、1回600mgから投与を開始します。 ②初回投与後、週1回の間隔で初回投与を含め合計4回点滴静注し、 ③その1週間後(初回投与から4週間後)から1回900mgを2週に1回の間隔で点滴静注します。 「注意すべき重大な副作用」 ①髄膜炎菌感染症:髄膜炎菌感染症を誘発することがあるので、本剤の投与に際しては、当該感染症の初期徴候(発熱、頭痛、項部硬直、羞明、精神状態の変化、痙攣、悪心・嘔吐、紫斑、点状出血等)等の観察を十分に行い、髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌剤の投与等の適切な処置を行う必要があります。海外では、死亡に至った重篤な髄膜炎菌感染症が報告されています。 ②infusion reaction:ショック、アナフィラキシ一様症状等があらわれることがあります。 ソリリスは国内外の各種臨床試験において、LDH値低下や輸血回数減少などにおいてプラセボ群に対して有意差を示すことが報告されています。 しかし 薬価に驚かされます。 今のところ300mg/Vあたり58万円程度と見積もられています。 PNHは特定疾患に認定されるほど患者さんの少ない疾患であること、モノクローナル抗体療法の開発費用などを考慮するとそれぐらいの価格になるのは分からなくもないのですが、患者さんは常に高額医療費申請を行わなくてはならず、医療費の削減を狙う国家戦略とは矛盾します。 こういった少数ではあっても、画期的な効果を示すことが予想される薬剤がより供給されやすくなることを切に願うばかりですね。 (製剤写真:アレクシオンファーマHPより) < 前のページ次のページ >
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